ハインライン『異星の客』(東京創元社、1969)

ハインライン『異星の客』(東京創元社、1969)

失敗に終わった火星探査。乗組員となった当代最高の学者、エンジニアたちが地球に帰還することなく、予算の制限から探索は停滞。
数十年後、ようやく環境が整いふたたび火星探査に出かけたチームは、さきに失敗したチームのメンバー間に生まれ、火星人に育てられた男スミスを発見。
保護し地球に連れ帰る。

事態が落ち着くにしたがって、慣習法上、火星の権利は、「火星人」スミスに属することが発覚。
それを嫌う政府と希代の学者にして弁護士、偏屈爺さんハーショーの駆け引き。

【本文より】
◯いや、怒ってるわけじゃない。しかし、比較フォーク・ダンス論や新式毛針などで博士号をばらまくようになってからは、わしも自分の肩書にはえらく自尊心を持つようになってな。わしは水で薄めたウイスキーには手をださんし、水増し学位にも自尊心は感じんのだ。

◯政府なんてやつは!4分の3はダニみたいなやつで、残りは不器用な阿呆だ。そうだ、社会的動物である人間は政府というものを避けることはできない。[中略]しかし、ひとつの悪が不可避なものだからといって、それだけでそれを善と呼ぶことはできない。




■鉄板もいいところです。






■SF少女を主役にした知ったかマンガ。『月は無慈悲な夜の女王』を(タイトルだけ)取り上げたりのSFいじりが愉快です。


スポンサーサイト

チャイナ・ミエヴィル『ペルディード・ストリート・ステーション(上)』(早川書房、2012)

チャイナ・ミエヴィル『ペルディード・ストリート・ステーション(上)』(早川書房、2012)

人間の体に甲殻類の頭を持つケプリ、鳥人ガルーダ、低能の飛行人種ヴォジャノーイなど多くの種族が同居する、と一見ファンタジーものに見せながら、冷静な記述でそれを当然のこととして構成自体を読ませるSFに仕上がっています。

主人公は統一場理論の研究に専念するため教授職を捨てて裏通りに住む学者のアイザック。
錬金術に薬の調合と怪しい仕事を受けて研究費を稼ぎ、己の理論の実証に邁進します。

なぜかハードSFの主人公になる学者は科学オタクでありながらリア充要素をそこそこに持っているものですが、アイザックも多分にもれず彼女持ち。
しかし人間の体に甲殻類の頭を持つ〈ケプリ〉の恋人リンとの付き合いは人目を忍ぶもので、アイザックとリンの行き違いも。

そんなアイザックのもとに、翼をもがれた鳥人ヤガレクが現れ、「再び飛べるようにしてほしい」と依頼。
学者の魂を刺激されたアイザックは手探りで課題解決にあたります。

無秩序に発展を続けるペルディード・ストリート駅。舞台となる街の中心であり、渾然一体たる多種族の住人たちの有りようの象徴でもあるこの駅。
学者アイザックは自らの知的態度をこの駅になぞらえます。

【本文より】
◯「わたしに頼むのが最良の策だと思うね。私は化学者〈キミスト〉でも生物学者でも魔術師でもない …私は好事家〈ディレッタント〉だ、ヤガレク。道楽者なんだ。わたしは自分のことを …自分のことを、あらゆる思考の学派に開かれたメイン・ステーションだと思っているんだ。ペルディード・ストリート駅みたいな。知っているかい?」

◯『人間なんて、ケプリの胴体と脚と手を持っていて、頭は毛を剃ったテナガザルじゃないの』と、かつてリンは彼に言ったことがある。


早川書房Kindleセール(〜27/12/4)

早川書房Kindleセール(〜27/12/4)

まとめサイト(電子書籍の司書さん)で402件紹介されていますが、「グイン・サーガ」シリーズとラノベがかなりの分量を占めているのでそれ以外を拾ってみました。

■小川一水
『天冥の標』シリーズ
 → 大河SFにして徹夜小説。舞台はめまぐるしく展開し、過去から未来、現在から過去へ。やがてお話は一つの筋に収斂し。27年12月には最新刊が予定される。
 
『天涯の砦』
 → 宇宙ステーション災害SF。真空中での死亡の描写や周辺環境の描写がリアルで作品世界に入り込めるとの評判です。

『時砂の王』
 → 時間遡行、時間線の分岐。自らの役目を果たすことで時間線は変化し、元の時代に帰還できなくなる悲運を生きるアンドロイド。

『老ヴォールの惑星』
 → 短編集。代わり映えしない漂流の風景を描く著者の筆力が光ります。

『第六大陸』(1・2)
 → 財閥のお嬢様が宇宙開発のため人材を募り企業を買収。変人エンジニアと熱血部下、物語は展開し、お嬢様は小学生から高校生に。お嬢様のわがままを支援する祖父、財閥総帥の暗躍。

『復活の地』(1〜3)(2012)
 → 帝国、災害、外敵、国家の再生。リアル要素強めのファンタジーSFの雰囲気。

以下はライトな感じです。

『フリーランチの時代』(2011)
『青い星まで飛んでいけ』(2011)

■神林長平
『ルナティカン』(2003)
 → 独自の言語観でとっつきにくい印象のある著者ですが、これは読みやすそう。アンドロイドに養育された少年。明らかになる出自。二級扱いされる民族。

『あなたの魂に安らぎあれ』(2012)
 → 人類文明を引き継いだアンドロイドに伝わる伝説。核戦争後の火星。破壊神。人類とアンドロイドの抗争。

■伊藤計劃
『虐殺器官』(2010)
『ハーモニー』(2010)
『The Indifference Engine』(2013)

→ 有名どころ。夭折の天才、SFの読後感の極地を持つ作家です。

■円城塔
『Boy’s Surface』(2012)
『Self-Reference ENGINE』(2012)
『バナナ剥きには最適の日々』(2014)

→ 伊藤計劃の盟友、未完の遺作『屍者の帝国』を引き継いで完成させたりします。未読ですが理系魂あふれるハードSF系統な印象。

■その他

光瀬龍『百億の昼と千億の夜』(2010)
 → 人生の不条理を描くSF。プラトン、ブッダ、イエス。ファンタジーじみた登場人物の口を借りて人生を語る。ものとあらすじから予想。

山田正紀『神狩り』(2010)
 → 天才科学者と未知の文明、というハードSF的道具立てながら、それが情報工学者で大正が古代文字というロマン。古代SF、神の実証。

柴田勝家『ニルヤの島』(2014)
 → 死と人間行動。遺伝子とミーム。うまくまとめた「文化人類学SF」

小野寺整『テキスト9 』(2014)
 → なんか凄そうなハードSF。老物理学者と弟子。異端の排斥。感情操作薬、謎の言葉、知性進化系統樹、金融の可視化。ゾクゾクきます。

藤井 太洋『Gene Mapper -full build- 』
 → ハードSF。遺伝子設計、強化作物。エンジニアが活躍する本作はSFの魂にあふれています。(途中で断念)

藤井太洋『オービタル・クラウド』
 → スペーステロとか。重厚な印象の著者です。

飛浩隆『グラン・ヴァカンス 廃園の天使I 』
   『ラギッド・ガール  廃園の天使II 』
 → 人類が消えた仮想リゾートを維持するAI。外敵の登場と環境の変化。「Ⅱ」が謎解き編のようです。

野尻抱介『太陽の簒奪者』
 → 水星から噴出した鉱物資源が太陽リングを形成、意図不明の異星文明の仕業で日照量が減少し地球は存亡の危機へ。で、科学者が破壊ミッションに旅立ちつつ謎に迫るお話。

野尻抱介『沈黙のフライバイ』
 → アンドロメダ星系とのファーストコンタクト。ほか宇宙SF短編集。

吉上亮『パンツァークラウン』(フェイズ1〜3)(2013)
 → 強化外骨格の人が出てくる近未来SF

宮内悠介『ヨハネスブルグの天使たち』(2015)
 → ロボット、アフリカ、戦災孤児。ドラマ要素強めのSFか。

下永 聖高『オニキス』(2014)
 → 2013年デビュー、若手の時間SFの人。

ジョージ・アレック・エフィンジャー『重力が衰えるとき』(早川書房、1989)

ジョージ・アレック・エフィンジャー『重力が衰えるとき』(早川書房、1989)

SFの道具立てに満ちた近未来サスペンス
スマホのようなものを持ち歩き、外科手術で脳にソケット差込口を設置した人々は人格もスキルも自由に入れ替えができ、舞台となるスラムであっても非合法人格モジュールは簡単に手に入る。

アラブの犯罪都市ブーダイーン、分裂したアメリカ、ロシア。
「一匹狼」を自称する主人公マリードはロシア人富豪から人探しの依頼を受けるが、交渉の席上で依頼者は殺されてしまい、、
真相に迫ろうともがくうち、マリードは町の有力者「パパ」のために働くはめに。

イスラム文化の描写、マリードの破戒スタイルが興味深く読ませます。

【本文より】
◯「わるいがね、わたしはアルコールを摂らない」
「ご心配なく」おれはキリガに向き直った。「この人にもおなじものを」自分のグラスをさしあげた。
「しかし ー」ボガティレフが抗議しかける。
「だいじょうぶ、おごりですよ。おれが金を払う。当然だ ー おれが飲むんだから」

◯ヤースミーンは、外から中まで、肉体も精神もすっかり修正されている。彼女の肉体は、例の完璧なカタログ注文の製品だ。クリニックの係員に相談にいくと、むこうがカタログを見せる。こっちが、「このおっぱいは?」ときくと、むこうが値段をいい、「このウエストは?」と聞くと、骨盤を割ってはめなおす費用の概算を答えてくれる。

◯このブーダイーンでは ー いや、おそらく全世界どこへいってもそうだろうが ー 人間は二種類しかいない。ぺてん師とカモだ。だますか、だまされるかだ。上品ぶってニコニコ笑い、わたしはサイドラインで見物します、というわけにはいかない。

◯クスリはきみの友人だ。敬意をもって扱え。きみは自分の友人を屑かごに捨てたりするか。トイレへ流したりするか。友人やクスリをそんなふうに扱うやつは、どちらも持つ資格がない。


アーシュラ・K・ル=グウィン『なつかしく謎めいて』(河出書房新社、2005)

アーシュラ・K・ル=グウィン『なつかしく謎めいて』(河出書房新社、2005)

ル=グウィンらしいフワフワした読後感、ファンタジー要素入りSF

空港での乗り換えの待ち時間に退屈した主人公シータは、退屈な時間と悪質な食べ物に当てられて気を失い、目覚めると異次元へ。
再現条件を特定し、「シータ・ドゥリープ式次元間移動法」を確立。
(科学的根拠の理屈付けはなく、あくまでファンタジー要素)

以下、シータと友人たちが見聞きした異次元の旅行記となっている。

不死の人の国、眠らない人の島、翼がある人の国などなど。ガリバー旅行記を彷彿させる希望と悪趣味の世界。

両親が学者で、文化人類学のサラブレッドと称される人文系ソフトSF作家、
著者の皮肉もにじみます。

【本文より】

◯空港の本屋に本はない。あるのはベストセラーだけだ。

◯私はマハグルに滞在するときには、帝国図書館で大半の時間を過ごす。よその次元にきて(あるいはどこの場所ででも)図書館で過ごすなんて、退屈きわまりないと思う人も多いだろう。しかし私は、ボルヘス同様、天国とは図書館によく似た場所だろうと思う。

◯オーリチ思想家たちの言うことにも一理あるかもしれない。確かに、意識には高いコストがかかる。意識の代価は、私たちの人生の三分の一。目が見えず、耳が聞こえず、口が聞けず、無力で思考力のない状態 ー つまり、眠って過ごす時間だ。


プロフィール

望月もちお

Author:望月もちお
インドア派です。
本棚 http://booklog.jp/users/mocciom

もちお家TW
Twitterより
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード