小川一水『天冥の標 Ⅷ ジャイアント・アークPart2』

小川一水『天冥の標 Ⅷ ジャイアント・アークPart2』(早川書房、2015)を読む。

全10巻シリーズのうち8巻。のクライマックス。

臨時総督政府を倒し新民主政府大統領となったエランカ、世界の始まり探して旅立つセアキとラゴス、咀嚼者(フェロシアン)との戦いで重症を負ったアクリラ。3つのパートが絡み合いよいよお話の総仕上げに、といった趣。

暴君と思われた臨時総督政府を倒したエランカ含むセナーセー市の有力者たち。しかし「暴君」と思われた臨時総督の行動は外敵から惑星ハープCを守るためのものであり、新政府は人々を守るため、はからずもその「暴君」と同じ振る舞いをせざるを得ない状況となる。

SFに限らず長編のお話には付き物の管理職の悲哀、経営者の孤独などが描かれます。(『彷徨える艦隊』のリーダーシップ論にも)

【本文より】
◯そこで初めて、見えない槌を振り落とされたかのように思い至った。自分のことを誰かのようだと思っていたが−。
領主だ。これは領主そのものだ。それが統治者だということだったのだろう。いや、過去形にはできない。同じことを、これからやり始めるのだから。冷たい血で令状にサインして、二度と振り向かない背後に多くのものを置き去りにしていくのだ。

◯人間ができることには限りがあり、大体の者はこの次の食事か、せいぜい明日の朝食を手に入れるていどのことしか考えていない。大昔に裸で棍棒を握っていたころからそうだったし、今でもそうだ。ただ現代では、明日の朝食の心配をしなくても、決まりきったことさえしていれば勝手にそれが出てくるような仕組みが、立派に整えられただけだ。人間そのものはおそらく何も変わっていない。
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